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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

「賭場の手入れ?」「……いや変な奴が歩きまわっているのだ」「うそうそ家のまわりをまわっている」「あそこの露路には五人いた」「あそこの空地には十人いた」――などといったようなささやき声などが、ささやかれてもいるのであった。「捕り物かな?」「そうかもしれない」「だが風態がそれらしくないよ」――などという声も聞こえなされた。「なんだか知らないが気味が悪いよ」「よくないことが起こりそうだ」「怪我をしないうちに引き上げよう」――という声なども聞こえるのであった。

何が戸外では起こっているのであろう?

あの目明しの代官松が、兄弟分と乾分とを率いて、水戸様石置き場の空屋敷へ、焼き討ちをかけて、混乱させて、ドサクサまぎれに山県紋也や、同志の者を片付けようとして、入り込んで来たに過ぎないのであった。

水戸様石置き場の空屋敷というのは、一方は隅田の川に面し、反対の側は寺院通りに面し、いうところの鰻の寝所のような、南北に長い空地であって、北のはずれには一ツ目橋があって、渡れば相生町や尾上河岸へ出られ、南のはずれを少し行けば、有名な幕府のお舟蔵となる。そういう空地へ貧民窟のような、穢らしい小家がゴチャゴチャと立ち、狭い露路が無数に通っているかと思うと、草の生えた小広い空地などが、随所にできていたりした。