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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

よしんば火が四方へまわらなくとも、右側に並んでいる私娼宿へは、まもなく火が移って焼けなければならない。その私娼宿の背後にあたって、火元の笹家があるのであるから。で、こうやっているうちにも焔が私娼宿の屋根を越して、空へ猛然と上がるかもしれない。そうして私娼宿の門や窓から黒煙と一緒に束のような焔が、ドッと噴き出して来るかもしれない。

「どうともして露路から出なければならない。手近に空地があったはずだ。いそいでそこへ行くことにしよう」抜き身を背後へかくすようにして、火光で深紅に輝いている、細い露路を一方へ歩き出した。だが三間とは歩かなかったであろう、その時左側に並んでいる、私娼宿の家々の屋根の上へ、夜ではあったが火事の光で、猩々緋のように輝いている、凄くて美しい明るい空を背景として人の姿が、七、八人陰影のように現われた。と見てとった山県紋也は、「きゃつらだ!」と叫ぶと抜き身を引き付け、屋根から飛び下りてかかってでも来たら、叩き切ってやろうと上を仰いだ。が紋也のその考えは、より惨酷の所業によって、すぐに裏切られてしまうことになった。

と、いうのは屋根の上の人間どもが、何やらいっせいに叫んだかと思うと、突然に彼らの両手が上がって、つづいて両手が下げられた時礫や丸太や火のついている棒が、紋也の頭上へ恐ろしい勢いで、唸り