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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

疑問の問答

しかし娘は白痴でもなければ、また狂人でもなさそうであった。書く手に狂いがないばかりか、書かれた文字にも乱れがない。

こうして同一の一首の和歌を、五軒あまりのお長屋の土塀へ、しだいしだいに書いて行ったが、六軒目のお長屋の土塀の面へ、同じその和歌を書こうとした時に、

「女子よ」と呼ぶ声が背後から聞こえた。

無言で振り返った娘の眼の前に、一人の供侍を従えて、おおらかにたたずんでいる人物があったが、道服の下から括り袴の裾が、濃紫に見えているところから推して、公卿であることがうかがわれた。

「およびになりましたのは妾のことで? 何かご用でござりますかしら?」

りっぱな公卿にとがめられても、娘はたいして驚こうともしないで、平然として訊き返した。

と、呼びかけた公卿のほうでも、あえて突っ込んでとがめようとはせずに、これも平然たる態度と口調で、

「なんと思うてそのような所へ、そのような和歌を楽書きするぞ? 風流にしては邪である。悪戯にしては度が過ぎる。そちの思惑を聞きたいものだ」こういって相手の返辞を待った。

疑問の問答

と、娘は月の光の中で、大胆に艶めいた笑い方をしたが、