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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
と、なんだろう紐のようなものが、脛を伝わって足の甲のほうへ、ズルズルとたぐられて行くではないか。昼間見たらその紐は赤く見えよう。夜である今は蒼黒い色に見えた。小次郎に刀で薙がれた時に、迂濶に受けた傷口から、流れてしたたっている血汐なのであった。
柔弱者の小次郎を一刀に仕止めることができず、その上にあべこべに傷を負わされたので、兵馬はカッとのぼせてしまった。がしかし小次郎が立ちあがって、構えているのであったならば、すぐにこの太刀を下すことができたが、あたかも転がって行く俵のように、小次郎は地上を転がっていた。柔道に寝業というものがあって、これにかかると練達の士でも意外に不覚を取るものである。剣道の外伝にも寝業はある。同じく迂濶にかかろうものなら、同じく不覚を取るものであった。兵馬ほどの腕利きの武士である、小次郎が取るにも足らないような、武道未熟の武士であるという、そういうことはわかっていた。が、寝業をされた日には、多少とも用心をしなければならない。そこで下段に構えをつけて、はやる心を押し静めて、小次郎のコロコロと転んで行くようすをグッとみつめているのであった。