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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
真下にも一輪の白い花があって――華奢で美男で色白の、小次郎の顔とて花ではないか――うつむいて来る雌花を受けようとしている。
火事は大火となったと見えて、空に赤味が加わって来た。が、地上には月の光がおだやかに蒼白く敷かれている。木々の静まっていることは――四人の女も四人の武士も、このような出来事には慣れているぞと、そういってでもいるように、姫君姿の女のほうへも、小次郎のほうへも見向こうとさえしない。――木々の静まっていることは! ――いずれも冷然とたたずんで、保護をするのが役目であると、心を定めているかのように、駕籠の周囲を守っている。と、白々と二輪の花が、今や一つになろうとした。しかしその時地を蹴るような、荒々しい音が手近で起こった。駕籠の一団から一間ほど離れて、立っていた美作が驚きと怒りで、思わず地団太を踏んだからであった。
「お噂はお噂ばかりでなく、誠のことでありましたか! ご乱行にも程がござる! ご自分にお恥じなさりませ! 左内を、左内を、いかがなされるお気か! 穢らわしゅうござるぞ! 穢らわしゅうござるぞ!」
片手にひっさげた抜き身を顫わせ、美作は駕籠へ近よろうとした。