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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
鈴江走る
「あれは何者にござりますか? 駕籠の中におられた姫君姿の女は?」
美作の後を追って来て、美作の背後にたたずんで、姫君姿の駕籠の中の女の、言葉や所業を美作と一緒に兵馬もすっかり見聞いたのであった。そうして兵馬には姫君姿の女が、美作が怪しく思った以上に、怪しく思われてならなかったのである。
「ご前」と兵馬はややあっていった。「化生の物とも思われませぬが、あの女は何者にござりますか?」
「あれか」と美作ははじめて答えた。が、その後をいいつづけようとはしないで、柱から離れると酔漢かのように、ヒョロヒョロと前へ歩み出した。
「あれか」と美作は先へ進んだ。
「あれか……あれはな……殿の息女だ! ……左内が……いかさま……諾わないはずだ。……」ヒョロヒョロヒョロヒョロと先へ進んだ。
と、二つの人の影が、背後からこちらへ走って来た。
鈴江走る
「火事は両国だということだ! 水戸様石置き場の空屋敷だそうだ!」
往来を人々が走りながら、こういう叫び声を立てた時、鈴江は居間で針仕事をしていた。
「まあ」とつぶやいたが立ち上がって鈴江は雨戸をあけて見た。なるほど両国の方角から、火の手がカッとあがっていた。