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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
「水戸様石置き場の空屋敷へは、今宵も兄上には行っていられるはずだ。火事のためにお怪我でもなさらなければよいが」――で、たたずんでしばらく見ていた。火事は盛んになるらしくて火の手が見る見る大きくなった。
「隙のない兄上であられるから、お怪我などなされる気づかいはないが、でもなんだか心配だねえ」――しかし鈴江は女の身空で、たとえ火事場へ駆け付けたところでなんの役にも立ちはしまい。……こう思って出かけようとはしなかった。がいうところの予感でもあろうか、何となく兄の紋也の身の上に、変事があるような気持ちがして、しだいに心持ちがいらいらして来た。「そうだ誰かにようすを見て来て貰おう」――で、鈴江は内門弟を呼んだ。
「代地様代地様ちょっと来てくだされ」――と、玄関に近い部屋から、男の答える声がしたが、すぐに襖をあける音がして、二十八、九歳の質朴らしい、代地という武士が姿を現わした。
「お嬢様ご用でございますかな。……や、これはこれは火事でござるか」この時まで勉強をしていたのでもあろう、青表紙の本を持っていた。
「あのね」と鈴江はすぐにいった。
「兄上が行っていられるのだよ。