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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

水戸様石置き場の空屋敷へね。ところで火事が起こったのだよ。その水戸様石置き場の空屋敷にね」

「ほほうさようでございますか。これは心配でございますなあ」

「でね」と鈴江はいいつづけた。

「ちょっとようすを見て来ておくれ」

「かしこまりましてござります」こういうと代地はあわただしそうに、玄関のほうへ小走って行ったが、まもなく潜り戸の開く音がした。

ますます大火になると見えて、空が赤味を加えて来て、擦半の音や鐘の音が、いらだたしそうに聞こえて来た。

鈴江は縁の上にたたずんだままで、いつまでも不安そうに眺めていると、その時玄関のほうから、あわただしく呼ぶ声が聞こえて来た。

「お嬢様お嬢様大変でござる! 水戸様石置き場の空屋敷を……」

みなまで聞かないで縁から離れて、鈴江は玄関まで走って行った。両国に屋敷を持っていて、毎日道場へ通って来る五十嵐駒雄という門弟が、大急ぎで走って来たからでもあろう、荒い呼吸をハッハッとつきながら、沓脱ぎの上に立っていたが鈴江の姿を眼に入れると、

「代官松の一味の輩が、先生に危害を加えようと、水戸様石置き場の空屋敷へ、只今焼き討ちをかけましたそうで。