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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

……」

「まあ」と鈴江は胸をそらせた。

「代官松めが……兄上に対して……でもどうしてあなたにおかれては?」

すると駒雄は手の甲をもって、額の汗を押しぬぐったが、「自宅に近うございますので、両国一帯の盛り場は――妙ないい方ではございますが、私の縄張りにございます。で、今宵もブラブラと水戸様石置き場の空屋敷を、……すると火事ではござりませぬか。はてなと注意をして見ていましたところ、『焼き打ちだ焼き打ちだ! 放火だ! 放火だ!』とそういう声がまず聞こえて、『代官松めが乾児をひきいて、はいり込んで来た!』という声々が――これはどうやらあそこの賭場にいた博徒どもが傷持つ自分の脛から、目ざとく目付けたところから、叫び出したものと存じますが、そういう声々がつづいて聞こえて……いえもうこれだけで結構なので、一散に走ってお嬢様へお知らせに参上いたしました。……で、今ごろは先生におかれましては……」

鈴江はその後を聞こうとはしないで、裾をひるがえすと居間のほうへ走った。が、すぐさま現われた。

「五十嵐様ご一緒においでくだされ!」

五十本の吹き針を右の手に握って左の手では褄を引き上げ、はきものもはかない足袋跣足で、こう駒雄へ声を掛けた時には、鈴江は門外へ走り出していた。