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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

で、まれまれではあったけれども、門に出ている人や道を歩いている人は、眼を見張って鈴江を見送った。雉子町の通りを両国をさして、東南に向かって走って行けば、吹矢町となり、番場町となり、神田川の河岸へ出る。渡って先へ走って行けば、代官町となり水谷町となり、鞘町となって佐久間町となる。

頸を抜けるほど衣紋から抜いて薄白く月光に浮き出させて、前こごみに体を傾けて、足のもどかしさに焦心りながらも、しかし武術のたしなみはある、決して口で呼吸をしないで、唇をかたく引き結び不安と殺気とで眼を輝かせ、そういう町通りを人目も恥じず、鈴江は走りに走って行ったが、「焼き討ちにかけられたその上に、大勢の者に襲われたでは、武道すぐれた兄上といえども、難儀をされないものでもない。もしもの事があろうものなら自分たちの企てた一大事も、水の泡になって消えてしまうし、父上のご意志も建てられない。自分たち一族にしてからが、みじめな身の上になってしまう……兄上! 兄上! 兄上! 兄上! ご無事でおいでくださいまし!」と、念じに念じているのであった。

そういう鈴江を守るようにして、鈴江とすれすれに肩を並べ、大小の鍔際をおさえながら五十嵐駒雄は走っていた。