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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
しかも背中へは子供を背負って、枝のように細い両手をまわし、子供の尻の辺を抱きかかえ、自然と前へこごんでいる胸から、夜目にも蒼い乳房を出し、酒に酔ってでもいるかのように、足もとさだまらず歩いて来る。と、無心に空を仰いだ、落ちくぼんだ眼窩の底に沈んで、正気の人間の眼とは見えない、異様に鋭く、異様に痴呆的の狂人じみた眼が光っていたが、その二つの眼を縦断して険しい高い鼻があり、その下に前歯を食いしめて、唇ばかりをポッカリとあけた小さな口がついていた。
で、もしこの女が貧しくなくて、正気で肥えていて着飾っていたなら、十分に美人として通りそうであった。かさ張った物でも入れているのであろう、両方の袂がふくれていてダラリと下へ下がっていて、歩くごとに股のあたりで揺れ動いた。虐待と貧しさとに発狂をした、可哀そうな若妻とは一眼でわかった。が、それにしても母の肩の上へ、これも痩せこけた頤をのせて、眠りにはいっている二歳ばかりの、男の子の可憐さというものは! 栄養が不足しているからでもあろう、首は抜けそうに痩せているし母親の肩でおさえつけられている、頬などにも肉はついていなかった。