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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

別れ別れて

お前様、お叩きなさらぬがよい」

「竹之助様がいとしがって、ピチャ、ピチャ、ピチャ! ――ピチャ、ピチャ、ピチャ! 坊やを叩くのでございます」

「どうもな、お前様、俺にはわからぬ」老人の声が興醒めたようにいった。「お前様をピチャピチャお叩きになり、坊ちゃんをピチャピチャお叩きになる。それで可愛がりいとしがるという。とんと、俺にはわかりませぬなあ。いやいや反対でございましょう。竹之助様というお武家様は、邪慳なお方なのでございましょう」

「ねえ。お爺様お聞きくだされ、二日も三日も竹之助様は、食べさせないのでございますよ。ええええご飯を、坊やや妾へ」

「…………」

「それでいて今年の初夏のころから、竹之助様はご仕官なされて、ご裕福なのでございますよ」

別れ別れて

老人の声は聞こえなかった。返辞をしないでいるのであろう。で、佐久間町の夜の通りには、なんの物音も聞こえないで、いかにも秋の深夜らしく、ひっそりとして寂しかった。が、ややあって女の声がした。

「どこへご仕官なさいましたのやら、明してくださいませんので、妾は心細うございますけれど、でも心強うございます。浪人ぐらしのころから見ますと、竹之助様にはおりっぱになられて、大小から衣裳からお持ち物まで、きらびやかにおなりなされたのですから。