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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

……が、いけない、まだいけない。切っ先がこっちへ向いているではないか。これ横へやれ、横へやれ!」いいいいさらに幾足となく嘉門は小刻みに背後へ下がった。

と、金兵衛は、「へい」といったが、抜き身の柄へ片手をかけると、おとなしく抜き身の位置を変えた。すなわち、切っ先を横にしたのである。

「これでよろしゅうございますかな?」

「さようさ」と嘉門はしぶしぶといった。が、巻き奉書を差しつけたままで、またも小刻みに背後へ下がった。「さようさ、うむ、それはよろしい。……だがお前さん後へお下がり! 抜き身の前にすわっていて、飛びかかろうとでもするように、柄頭の側へ両手を据えて、私を恐い眼で睨んでいたでは、人に物を頼む作法にはならない。お下がりお下がり、二、三尺お下がり」いいいい嘉門は自分でも、ソロリと背後へまた下がった。

どうもしかたがなかったので、いわれるままに金兵衛は、抜き身から二尺ほど背後へ下がった。

「これでよろしゅうございましょうかな?」――で、いかにも手に入れたそうに、月光の明るい空間に、おいでおいでをしているがように、上下へ揺れている眼の先の、嘉門の差しつけている巻き奉書へ、金兵衛はグッと眼を注いだ。