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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

で金兵衛は手を上げると、夢中のように潜り戸を叩いた。

しかし、内側からは依然として放心したようなお粂の声が、このように聞こえて来た。

「はいって来ればよいではないかい。お前さんが帰って来なかったんだよ、誰が潜り門など閉てておこう。さっきからあいているのだよ、鍵なんかかかってはいないのだよ」

――その時ずっと奥のほうから――屋敷の玄関と思われるあたりから山県紋也の妹の鈴江の、声らしい声で呼ぶのが聞こえた。

「お粂様! 兄が! ……眼を! ……呼吸を!」

「呼吸を! あッ」というお粂の声が、魂消るように聞こえたかと思うと、玄関のほうへ走り返る、狂気じみた足の音がした。

「チェッ、潜り門はあいていたのか!」ドンと押した金兵衛の手につれて潜り門はバックリと口をあけた。

「しめた! 方々! お屋敷の方々!」

潜り門の口から顔を差し入れ、こう金兵衛は声をかけたが、ハッと気が付いて振り返って見た。月に白々と往来はあったが、嘉門の姿は見えなかった。

金兵衛さがす

「いない! ううーん、爺はいない!」

金兵衛は思わず声を上げたが、しかしよくよく考えてみれば、泉嘉門のいなくなったのは、当然のことであるかもしれない。