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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
「あの奉公心得書を講義する人があるとすれば、竹内式部先生か、そうでなければ自分の父上の山県大弐でなければならない。そうでなければ父上の同志の藤井右門殿でなければならない。しかしそれらの三人の方々は、とうに死なれてしまわれたはずだ」――それだのに講義をする者がある! これがどうにも紋也にとっては、不思議に思われてならなかった。したがって講義をしている人の何者であるかということを確かめたい欲望にとらわれもした。まず紋也は眼をあけた。
と燈火の光なのであろう、橙黄色のほのかな光が、以前のようにすぐに眼に映り、つづいてその中に浮いている白い女の顔が見えた。
「女がいる、誰であろう?」――紋也は女を確かめようとして、できるだけ強く視力を凝らした。すると白い女の顔が、静かに上へ昇って行った。「はて、これはなんということだ!」――こう紋也が思った時、女の顔がユラユラと揺れて、橙黄色の光が、ぼんやりと輪形を作っている天井の下を一方へ動いた。
「女は、どこかへ行くのだとみえる」――紋也は、漠然とそう思った。
事実それに相違なかった。
「金ちゃんはどうしているのだろう? なぜ帰って来ないのだろう? ……金ちゃんのいった巻き奉書という言葉! これも妾には気にかかる」