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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

女の間、家士たちの溜り、調理の場所、無数の建物が描かれてあり、そういう建物をグルリと取り巻いた、前庭後庭中庭などの、変化縦横の庭園の様が、同じく精巧に描かれてあった。と、一所に築山があり、裾をめぐって流れがあり、巨大な池がその末にあり、池に石橋が渡されてあり、石橋を渡った一所に、石燈籠が立っていたが、その石燈籠の台石のほとりに、朱色で十文字が記されてあった。

と、皺だらけの手がのばされ、枝のようにコチコチとひからびている、二本の指がひょいと動いた。鼻柱の曲がっている一人の老女が綴じ紙を一枚めくったのである。

と、そこにも大名衆の、下屋敷らしい宏大な、建物と庭園との絵図面がこれも精巧に描かれてあった。一所に竹の林があり、その竹林の根もとのあたりに、同じく朱色の十文字の符牒が、あるかなしかに描かれていた。しかも数は二個であった。

「これはどうやら土屋采女正様の、お下屋敷のようでございますな」歯茎の取れている老女がいった。が、すぐに紙がめくられた。

図面の数々

めくられた綴じ紙の面には、またも図面が描かれてあった。しかし大名の下屋敷などの、庭を取り入れた図面ではなくて、四面を小丘で囲ませて、その中央の低い所へ、豪農らしい堅固質素の、しかし十分宏壮な家が、作られたところの図面であった。