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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
すぐに抜け出た頸足が、燭台の燈火に照らされたが、脂肪気がなくてカサカサとしていて、折れそうに細っこくて穢ならしかった。それでいて腫物でもあるのであろう、角に切った膏薬が貼ってあった。
いかにもその老女がいった通り、東側に立っている小丘の麓に、朱色の十文字が小さくはあったが、たしかに三つ記されてあった。と、一本の腕が出て指が綴じ紙を一枚めくった。横から歯茎の取れている老女が、次の図面を見ようとして、綴じ紙をめくったのであった。
また図面が描かれてあった。
とはいえそこに描かれてある図面は、大名衆の下屋敷でもなく、田舎の豪農の家でもなく、一宇の寺院の仁王門であって、その仁王門の礎のあたりに、例によって朱色の十文字の符牒が、このたびは四つ記されてあった。
「どこの仁王門でございましょう?」
こういったのは歯茎のない老女で、こういうと片方の膝を崩し、体をいやらしくクネクネとさせた。少し拡がった胸もとのへんを、燭台の燈火が光らせたが、一つ家の鬼女を想わせるように、皮膚がたるんでいて茶色をなしていた。
誰も返事をしなかった。誰もが知っていないからであろう。
「どれどれ次をめくって見ましょう」