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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

しかるに紋也がそういうようにして部屋の襖をあけたがために、部屋の人たちは驚いたように、揃っていっせいに紋也のほうを見た。と、紋也の引きあけた襖が、その部屋の中央にあたっている襖の一枚であったがために、おのずからその部屋の中央の辺に並んでいる七人の武士の顔を、正視しなければならないことになった。で、紋也は正視した、するとどうだろう、その七人の武士に紋也は見覚えがあるではないか。

すなわち一人は薩摩の大領、島津修理太夫のお側用人、猪飼市之進その人であり、もう一人は毛利大膳太夫の家老、宍戸備前その人であり、もう一人は山内土佐守の家老、桐間蔵人その人であり、もう一人は鍋島家の重臣の、諫早益千代その人であり、もう一人は松平三河守の智謀、永見文庫介その人であり、もう一人は水戸家の若年寄、渡辺半蔵その人なのであった。そうしてこれらの人々は、日ごろから紋也が接近しようとして苦心して手蔓を求めていた相手で、これらの人々と懇親となり、これらの人々へ己が思想を、吐露したあげくにこれらの人々が、その思想に共鳴をしてくれたならば、主家を動かすことさえできる。そういう素晴らしい大大名の、威権嚇々たる重臣方なのであったが、ところがそういう重臣方が、さもつつましく膝を揃えて眼の前に端坐しているのであった。