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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

不意に部屋の中を明るめていた橙黄色の燭台の燈火が、まばたきをしたように見てとれたが、紋也が投げ出した刀の鞘が、燈火をはねたに過ぎなかった。投げ出した刀が音を立てて落ちて、のびたように畳の上へおちついた時、その横に膝を突き手を揃えて、かしこまっている武士があった。紋也以外の誰であるものか。

「……やはり……あなた様におかれましては……」胸が苦しく息づきかねたか、こういって来て紋也は絶句した。が、つつましく後をつづけた。

「……父より詳しく承わりました。……ご容貌なり……お姿なり……」また紋也は絶句したが、その代わりにスルスルと膝を進めた。

「たしかあなた様におかれましては……三宅の島でご逝去なされた、大先生に相違ござりませぬ! しかし……どうして……あなた様が……不思議でござります! 不思議でござります!」

そういった紋也の言葉に答えて、老儒者は何かいおうとしたらしく、見台から躯をのり出すようにしたが、にわかに躯を元の位置に直すと、耳傾けるように首を傾けた。

屋敷の門のある方角から、お粂と鈴江との叫ぶ声が、甲高に聞こえて来たからであった。

「お屋敷の方々ご用心あそばせ! 代官松の一味の者が!」