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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

回想の数々

思い出したように老儒者はいった。

回想の数々

「代官松とかいう目明しが、俺の正体を見きわめようとして、追って来た日の両国の往来で、俺は、売卜者に尾羽打ち枯らした、吉田武左衛門の姿を見かけた。剣難の相が現われていたので俺は注意を与えておいて、翌日から人を市中へ配って、武左衛門の住居を探させたが、今もって発見することができない。あるいはこの世にいないのかもしれない……それでいて武左衛門の預かっていた、この大切な綴じ紙ばかりは、小次郎殿の手によって、あのような変な空家から、偶然発見することができた。いずれいろいろの事情の下に、めぐりめぐってあちこちの人へ渡り、あげくにあそこから目付けられたのであろう」いよいよ老儒者は憮然とした。と、側にいたお粂がいった。

「先生がお見掛けなされました、両国にいた売卜者には、妾も縁がござります。徳大寺様から清左衛門様へ預け、先生へお手渡し致しますはずの、例の重大な巻き奉書。――それにしても巻き奉書をお持ちになって、江戸へ下られた清左衛門様には、お気の毒にも箱根の山中で、誰にともなく討ち果たされ、この世を去られてしまいまして巻き奉書も奪われました。