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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
お粂は無言で頭を下げた。と、その時紋也がいった。
「京丸に埋めました金子と申すは?」
「あれか、宝暦の事件の際に、同志が諸方から集めた金子だ。……これを活用して事を挙げるのが、我々の今後の仕事なのだ。さて、そろそろ出かけるとしよう」
老儒者の乗った駕籠を取り巻き、一団は先へ歩き出した。荷物を背負っている人足などもあった。何がはいっているのであろう? 新しい軍器の模型かもしれない。
年が代わって春となった。お狂言師の泉嘉門の、花の咲いている裏庭で、恋語りをしている男女があった。北条左内とお菊とである。
「父も性質が変わりました」といいいい左内は微笑をした。
「去年の初秋からでございますよ。にわかにおだやかになりまして私の申す意見などにも、耳を傾けるようになりました。よく口癖に申したりします。『事というのは齟齬するものだ。俺はこれからは我は張らぬよ』このように申すのでございますよ」
鶯の啼き声が聞こえて来た。小舞物をうたう声などもした。
「父もおだやかになりましたし、元気にもなりましてござります。お聞きなさりませ『柳の下』を、あのように朗らかにうたっております。