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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
神仙境
……このごろ破門を許されまして、舞台に立つことができましたので、元気になったのでござります」――で、お菊は聞こえて来る嘉門のうた声に耳を澄ました。
すると、左内がささやくようにいった。
神仙境
「嘉門殿を舞台に立たせますよう、宗家へ申し入れましたのが、私の父なのでございますよ」
「まあ」とお菊は眼をみはったが、感謝にたえないというように、左内へ初々しく頭を下げた。
二人をおおうている彼岸桜が、陽に蒸されて今にも崩れそうに見えた。ふとお菊は不安そうに訊いた。
「桃ノ井兵馬と申される恐ろしいお侍さまがございましたが。……」
「兵馬でござるか、どうしておるやら。『あの男はあまりに惨忍に過ぎる』このように父が申しまして、出入りを止めてしまいました。……が、いやらしい人間のことなど、考えないことに致しましょう」泉水で鯉のはねるらしい、清々しいかすかな音がした。
「あのう」とお菊は口籠るようにいった。
「あなた様にはお許婚のお方が……」
「ああありました、満知姫様といいます」どうしたのか左内はこの言葉をいうと、妙に憂鬱の顔をした。
「が、お命はありますまい」
「…………」
「ひどくご衰弱なされましてな、骨と皮ばかりになりました」