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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
「ある日私は道に迷って、谷深くはいってゆきました。するとどうでしょう木の香の新しい、幾棟かの家々が建っていて、武士たちがおるではありませんか。講義をしている声もすれば、武芸を習っている音もすれば、何か機械でも造っているらしい、つちの音などもいたしました。で私は驚いて、急いで横へそれましたところ、一軒の家から神々しいような、長身の老人が出て来られまして、川のほうへ歩いてゆきました。引きつけられたとでもいうのでしょう。歩いてゆく老人の後へついて、私も歩いてゆきました。と、天龍の岸へ出ました。私はそこで胆をつぶしました。四方山のような岩にかこまれ、一方だけに口をあけた、二町四方もあるであろうか――そんなにも広い平らの土地に、ひもうせんとでもいいましょうか、深紅の敷き物が敷いてあったからです。で、私はすくんでしまいました。そのまに老人はひもうせんの上を、先に歩いてゆきました。ところがどうにも不思議なのは、ひもうせんが老人の歩くにつれて、左右へユラユラと揺れるばかりでなく、その老人の腰から下を、見えないように隠すのです。で、私はよくよく見ました。なんと意外ではありませんか、ひもうせんだと思っていたのは、深紅のぼたんの花だったのです。