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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

と、その時二人の浪人が、千代古屋の門をくぐったが、そのみすぼらしい風さいから、どうやら帳場から断わられたらしい。が、二人の浪人は、そのようなことには慣れていると見えて、番頭と押し問答をしたあげくに、ズカズカと奥へ通って行った。

「はい千代古屋でございます。お泊まりなさいまし、お泊まりなさいまし」――留女は門口でなおも呼んだ。と、その声に引かれたかのように、前後して二組の男女の旅人が、千代古屋の門の土間へはいった。一組は紋也と鈴江であり、一組はお粂と金兵衛とであった。が、一足違ったためか、双方とも心づかなかった。別れ別れて別々の部屋へ、案内されて通ったのである。

「お泊まりなさいまし、お泊まりなさいまし」

なおも留女は門口で呼んだ。

「お妻太夫さんの見世物を見に、お島さん行って見たいねえ」

「こっそりごまかして見にゆこうか」

留女たちは客を招く合間に、こんな話を話し合っていたが、この大津の駅路のはずれの、水無神社の境内に、事実この時お妻太夫の一座が、見世物の小屋をかけていた。――が、千代古屋の奥の部屋の、出来事について語ることとしよう。

「兵馬氏、飯を持って来ぬの」