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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
「立っていたところでしかたがない。どれソロソロ帰ろうか」
女煙術師の行ったほうとは、全く反対の方角へ、若い武士はゆるゆると方向を変えたが、雪駄の音を響かせて二足三足歩き出した。
と、どうしたのか立ち止まったが、「しまった、すられた、印籠をすられた」
腰のあたりへ片手をあてている。で、クルリと振り返ったが、女煙術師を眼で追った。
「あの女がすったに相違ない。さっきまであった印籠だ。どこへも落とす気遣いはない。あの女がすったに相違ない。そういえばちょっとおかしかったよ。肩を少しく前へかしげて、顔を地面へうつむけて、小走るように走って来て、ポンとこの俺へぶつかったんだからなあ。粗忽でぶつかったぶつかり方ではないよ。すり取る手段としてぶつかったものさ。こいつうっちゃってはおかれないなあ」
で、若い武士は小戻りに戻って「待て!」と声をかけようとしたが「待ったり」と自分で自分をおさえた。「これは迂濶には呼べないよ」ニヤリと苦く笑ったらしい。また顔へ白く歯が見えた。「さて呼び止めて調べてみて、もし印籠がなかろうものなら、引っ込みのつかない不態となる。それにさ、疑いというようなものは、むやみと人にかけるものではない。