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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

武士は浪人をみつめている。というよりも浪人のようすを、検査しているといったほうがよい。そんなにも執念くおちつき払って、無言で浪人を見ているのであった。

「なんだこいつは無礼な奴だ」浪人は思わざるを得なかった。「呼び止めておいて物をいわない。なめるようにいつまでもジロジロ見る」

で、皮肉をいおうとした。しかしいうことはできなかった。例の理由のない圧迫が、浪人の口を封ずるからである。

「なんの素敵な鴨なものか、うっかりすると酷い目に逢うぞ」何となく浪人には思われた。「これは躊躇なく逃げたほうがいい」しかし逃げることもできそうもなかった。例の理由のない圧迫が、浪人の足を止めるからである。「叩っ切ろうかな? 叩っ切ろうかな?」

だがこう思った瞬間に、そう思ったことが相手の武士へ、どうやら直感されたらしい。

つと武士は一足前へ出たが、

「むやみと刀など揮わぬがよい」

「は」

「よいか」「は」「よいか」

といつか浪人はうなだれていた。

と、武士は刀の柄頭を、右手の白扇で拍子づけて、軽く二、三度叩いたが、

「通りかかって、見たというものさ。そちの素晴らしい手並みをな。で、呼び止めたというものさ。