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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

――と、兵馬はいよいよますます、慇懃の度を強めたが、「桃ノ井久馬と申します」

「何?」とこれを訊くと北条美作は、あたかも物にでも引かれたかのように――いやいやむしろ懐しそうに、二、三歩前へツカツカと出たが、

「桃ノ井久馬ならば存じている。神田小柳町に住居していたはずだ」

「はい、さようでござります」

「そうであったか、そうであったか、桃ノ井久馬の伜であったか。では俺とは縁の深い者だ」

「ご縁深き者にござります」

「…………」美作はここで沈黙をした。探るように兵馬を見下ろしている。それを兵馬が下のほうから顔をあお向けて見上げている。異様な沈黙となったのである。が、その沈黙が破られた時に、二人の間に次のような、意味深い問答が取り交わされた。

「お前の父は忠義者であったよ」

「が、お咎めを受けまして、日本橋において三日間晒らされ、遠島されましてござりまする」

「宮崎準曹、佐藤源太夫、禅僧霊宗らの忠義者とな」

「はい、同罪とありまして、遠島されましてござります」

「気の毒な身の上となったものよ。助けようと俺も手を尽くしてはみたが、そこまでは力がおよばなかった」

「口惜しい儀にござりました」