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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
で、この辺は町家町であった。しかもいうところの片側町であった。反対の側は神田川で、今、銀鱗を立てながら、大川のほうへ流れている。下流に橋が見えていたがそれはどうやら和泉橋らしい。とするとここは佐久間町の三丁目にあたっているのかもしれない。
「こんなりっぱな屋敷の中へ、はいって行ったとは不思議でならない、たかが女の煙術師ではないか」たたずんで見ていた若い武士は、今度は声に出してつぶやいたが、いかにも腑に落ちないというようすであった。本郷の往来で煙術を見ていて、うっかり油断をしていたところを女煙術師に印籠をすられた、――その若い武士であった。で、若い武士の思惑としては、たかが安手の芸人である。どこかみすぼらしい露路の奥の、棟割長屋の一軒へでも、はいって行くものと思っていた。しかるにどうやら期待は裏切られて、堂々たる構えのりっぱな屋敷へ女煙術師は入り込んだのである。
で、武士としてはこの事実は、化かされたようにも思われるのであった。
「他人の屋敷へはいったのではない。自分の家へはいったのだ。少なくもあの女の懇意な者の屋敷へはいったということはできる。……スタスタと道を歩いて来て、この屋敷の前まで来て、トン、トン、トンと潜り門を打って、二声三声物をいったかと思うと、すぐに内から潜り門の扉があいて、あの女を内へ入れ