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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

「くもるとも……何か恨みん……月今宵……晴れを待つべき……身にしあらねば……」朗詠めいた節であった。「ね」とお粂の声がした。

「この和歌を作られた人物と、深い深い関係が、妾にはあるのでございますよ。そうしてこの和歌を作られた人と、あなた様のお父様にあたられる方とも、深い深い関係が、やはりあったはずでございますよ。したがってあなた様と妾とも、深い関係があるものと、こう申し上げてもよろしいようで。ああ……」という一種の嘆息めいた声が、潜門扉の内側から聞こえて来た。「父上同士は師弟で親友! ではお互いの息子と娘は師弟以上に親友以上に……ああ」とまたもや声がした。「恋人同士になったところで、不思議ではないではありませんか! ……恋し合い愛し合い助け合って、そうして同じ道へ向かう! ……なんていいことでございます。……妾はあなた様を恋しております。……でもこれ以上は申し上げられません。……さようならよ、さようならよ! でもまたすぐにお逢いできましょう。……印籠をお返しいたしますよ」

月光に水のように濡れて見える土塀の甍を躍り越えて、石塊のような小さな物が、紋也の頭上へ落ちて来たのは、そういった声の終えたころであった。