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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
……それが兵馬を起たしたのである。
そういう眼にみえぬ繋がりをもった兄妹と自分たちとが、風雪荒るる岳上の岩屋で相会ったのだ。……大助は蘭学をも覗いたことがあり、いまさら迷信めいた感慨にうたれるつもりはなかったが、このめぐりあいの偶然さにはなにか動かすことのできない真実があるように思えなんとなく背中の寒くなるような感じを避けることができなかった。
「ごめんなさいまし」宿の婢が障子のそとからそう声をかけた、「あのう、まことに失礼でございますが」障子をあけた婢は、廊下へ手をついたまま気の毒そうに訊いた、「こちらさまのお国は伊予ではございませんでしょうか」
「……どうして」大助は訝しそうに眼を向けた、「宿帳にしたためたとおりだよ、讃岐の高松の者だ、どうしてそんなことを訊くのかね」
「どうしてでございますか、帳場でうかがって来いと申すものですから、どうもたいへん失礼を申しました、高松でいらっしゃるんでございますね」
「そうだよ、なにか不審でもあるのかい」
「いえ、なにか帳場で思い違えたのでございましょう、では御免下さいまし」婢はちらと藤尾のほうへ眼をはしらせた、そして丁寧に会釈して去っていった。