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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

二

「柳さん早く、早く来て」

二

柳通助が家のなかへ踏みこんだとき、離室から寒笑がとびだして来たところだった。右の小脇になにか抱えている。通助を見たとたん、かれは横っとびに庭へ走った。

「ああ裏の抜け路次です」

梅八が叫ぶより早く、通助はそのあとを追い、えいっと大喝しながら刀を抜きうちにその背へあびせた。「うぬ、斬るぞ」寒笑は抜け路次の木戸へからだを叩きつけた。錠がおりているからばりッと音がしただけである。ふり向いた、硬化した顔に眼がひきつっている。ひっというような悲鳴をあげ通助の刀を避けて右へ走った。つくばいがあったのを忘れている。逆上しているので掬われたように転倒した。ひっしに抱えていた包がとんで、さっと庭上へ巻き解いたのは、三当旗であった。

「動くと斬るぞ、動くなよ」通助は大剣の切尖をつきつけながら、「早くこれを片付けて呉れ」

こう梅八にふりかえった。そして梅八と藤尾とが旗を片付けているあいだに、寒笑の衿を掴んでひき起こし、そのまま離室へとぐいぐい曳いていった。

「きさま、こんどはのがさんぞ」

「…………」膝を固くして坐ったが、唇の色もなく全身わなわなと畳にひびくほど震えている。