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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
二
珍しい菓子を見てすぐにとびつく子供と、わざとよそ事へ注意をそらす子供とある。十七年ぶりで本当の父に会うということが、自覚せざるところで強く自分を支配していたのではあるまいか、菓子に対する子供の態度に甲と乙とがあるように、自分は乙の場合の子供とおなじく、そのよろこびにすぐとびつけないでいろいろよそ事に注意をそらしていたのではないか。
秀之進はどうしてそのような些細な心理にこだわっているのだろう、どっちでもいいささいな問題ではないか、……がささいな問題ではないのだ、少なくともかれにとっては、校川宗兵衛との面会は将来の生き方を決定するといってもよいくらいの大きな意味をもっていたのである。
二
秀之進は校川宗兵衛のしょうふくの子に生れ、五歳になるまで中屋敷の地内で育てられた。上屋敷のこの家には宗兵衛の妻子がいて、秀之進もときおり遊びに来た。庭の茱萸も、つくばいもその頃のなじみである。また清一郎、小三郎などという異腹の兄たちがいたことも記憶のどこかに残っている。
かれは五歳の秋に讃岐の高松へ移り、そこの郷士早水市左衛門の養子として育てられた。市左衛門は学者肌の人で、得石という号で詩をつくり、また文人風の水墨にも才があった。