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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
皀莢小路
一
そしてその末尾にかれはこうしたためた。――藤田虎之助どのこそ古今の人物と存ぜられ侯。
皀莢小路
一
「箱根のその宿に、三日おりました、折あしく雨にもなり、その三人の国侍がどうしても眼をはなさないものですから……」
「そうですか、ではそこで寒竹先生とごいっしょにおなんなすったんですね」
「はい……」藤尾にはまだ寒竹先生というのが可笑しくひびくものとみえ、微笑しながらちらと相手を見あげた、
「太橋さまがお風呂場でお会いになったとうかがいました、それで竹亭さんと、ごいっしょの書肆の方、妓の方たちとお伴れになって箱根を立ってまいりました」
「お武家のお嬢さまがそんな連中とお伴れでは、途中さぞご迷惑なことばかりだったでしょう、若旦那もお考えがなさすぎますよ」
「でもそのおかげて国侍たちの眼をのがれることができたのですもの、ほかにしかたがなかったのでございますわ」
日本橋横山町の皀莢小路というのは、両国広小路の盛り場にも近く、表通りは問屋、商舗、旅館などが軒をつらねて、一日じゅう人馬の往来の絶えない地域にあったが、そこだけは別天地のようにいつもひっそりとしずかだった。皀莢小路といわれるのは、むかし皀莢の樹でもあったのだろうか、今は若木の柳が十二、三本九尺の露路にしっとりと枝を垂れている。