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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
三
三
同じ時分だった。
大助の寓居から自分の家へ戻った竹亭寒笑が、格子をあけると、土間に客の穿物があった。書肆和田平の番頭のものだ。とたんに寒笑はにたりとした。売れっ子の作者ともなれば、そうする必要がなくともたまには留守を食わせたり付きっきりで書かせられたりするのが箔である。――迎えに来ちゃあいけねえ。行先はわからないと云え、留守番の婆さんにそう云いつけて出たのだ。残念なのは大助に追いたてを食って少し早く帰りすぎたことだが、そうかといってよそへ廻るほどの度胸はない。和田平に臍を曲げられては実のところそれっきりだからである。
「お帰んなさいまし、和田屋さんがいらしってお待ちかねですよ」
「そうか、それは済まなかった」
婆さんに頷くようすなどはなかなか箔がついている。座敷へゆくと藤吉という番頭が団扇をつかっていた。
「待たせて済まなかった」
「お帰んなさい」
「ちょっとさる版元から呼びに来られたもんだからね」
「版元ですって、なにか出す話ですか」
「おれの作が欲しいというのさ、なに珍しかあない、日に一つでもないが三日にあげずどっからかやって来やあがる、分さえ良くすれあなんでも書くと思ってるんだから……近頃の版元も格が落ちたものさ」