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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
三
高松が旧態にあると考えられません、同時に水戸が新時代に立っているということも不明瞭になってくると思います」
「それは表面をみているためだ」
「しかし水戸が幕府の枢機に参画しているのは事実ではありませんか、高松が甲辰の事に当って老公の反対側に立たざるを得なかった事情は、老公が現在の位置に立たせられた以上よく御了解を願えることだと思います」
「わたしは甲辰の事などを云ってはおらん」
「拙者はそれを申したいのです」
東湖はぐるっとその大きな眼を動かした。そして厚い唇をへの字なりにしたかと思うと、いきなり話題を変えて、「あんた酒を飲むか」と訊いた。
「あまり嗜みません」
「そうそう、久木たちとも飲まなかったそうだな、では失礼して、一盞するよ」
東湖は立っていった。――どういうつもりだろう、秀之進はちょっと推察に苦しんだ。
三
東湖が出ていったあと、秀之進はなにげなく部屋の中を見まわした。北向きの小窓の下に、二枚折りの古びた小屏風がある。それに酔筆と思える闊達な筆で「瓢兮歌」という詩が書いてあった。――どこかで聞いたような詩だな、そう思いながら筆跡をたどってみた。そしてすぐに、いつか鉾田の宿で久木直二郎たちが吟じていたものだということを思いだした。