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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
二
風はいよいよ強くなり、やがてなにか顔に当ると思うと、それは粉のような雪だった。つまり宮守の老人の言葉が偶然にも事実になったのである。闇は濃く道は嶮しかった。尖った岩が突き出ていて、うっかりすると爪先を痛める。寒気はますます厳しくなり、吹きしまく雪はたちまちからだの片がわに板を立てたように凍りつくのだった。
大助が少しずつ後れるのを気づかぬとみえ、秀之進は大股に、しっかりした足どりで登っていた。
二
八合目と思える岩屋へたどり着いたのは、あたりが微かに白み初める頃だった。
「腹を拵えていこうか」
秀之進が云った。こんどは大助が答えなかった。実は答えようにも舌が動かなかったのである。秀之進は岩屋の入口へ下りていって、吹きつけた雪の凍りついている重い引戸をあけた。そして思わず眼を瞠った。岩屋の中の炉に赤々と火が燃えている。その火のそばに、今まで寝ていたのであろう、二人の人影が半身を起こしてこちらを見ていた。
「あとを閉めて呉れ大さん」
そう云って秀之進は炉端へ近寄っていった。挨拶をするつもりだったのである。すると半身を起こしていた一人が、掛けていた蒲団をはねたと思うと、いきなり刀を抜いてこっちの鼻先へつきつけながら叫んだ、「とうとう来たか」