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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

二

――ごしゅくんはもう、おれの掌中からとびだそうとしておられる、かれは御前を退下しながらそう思った。これは緊めてかからなければならぬ、さもないと、……さもないと。

二

頼胤はひとりになりたかったので、近侍のものを遠ざけて茶室へはいった。

兄のことを耳にするといつも胸を圧迫されるような気持になる、ずっとまえから、いってみればかれが松平家の継嗣に立った頃からそうであった。――自分は兄を恐れているのだろうか、そんなことはない。――では嫌っているのだろうか、いや嫌っているどころか、むしろもっとしばしば会って話したいと思う、離れているからそう思うのではない、去年高松へ帰ったときはできるかぎりの暇をつくって会った、夜をこめて話したことも両三度はある。

――それならなぜ、兄の話がでるとこのように胸苦しくなるのか、つきつめて考えればその原因はわかっている、だがそれをはっきり認めることは頼胤にとっては苦痛なのだ、苦痛を忍んでそれを認めたところで、今さらその原因を覆えすことはできない、しかもそれに由る心苦しさは、兄のことに触れるたびに頼胤の胸をつよく圧迫するのであった。