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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
暦日
一
「そうのようでございます」
「ああよく降るなあ」
そう云いながら大助は両腕をうんと伸ばして欠伸をした。すると橋の上の武士たちはすたすたと向うへ、雨のなかを去っていった。
「あなたの落着き場所を思いつきました」大助はふりかえって云った、「江戸へまいりましょう、こんな事にはもってこいの男をいまみつけて来ました、なに、あんな討手の二人や三人心配はいりませんよ」
暦日
一
「なに、国もとから水戸へ使者が立ったと」
讃岐守頼胤はきっと眼をあげた。面ながの、眉の濃い柔和な顔だちが、ときに剃刀のようなするどさをみせる。いま内膳の申告を聴いてその条まできたとき、一瞬にしてその表情は掌をひるがえすかのようにするどく変ったが、その剃刀のような眼光こそ、内膳の期待していたものだった。
「それはまことか」
「事実でござります、亀阜荘さまの密旨をうけ、たぶん密書を持っておることと思われまするが、四月二十七日に高松を発足、東下つかまつったとござります」
「使者はなに者だ」
「藩士ではござりません、常々おそばへ出入りをつかまつる早水秀之進と申す郷士の伜だとのことでござります」頼胤は眼を宙にやった、内膳はしばらく待っていたが、「またその者は先日このお屋敷へまいり、校川宗兵衛のもとにて一夜をすごした事実がわかっております」