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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
二
そう云いさして、左近は、なにか眼に見えぬものに低頭するような調子で言葉をむすんだ。
「まことに下人の評判というものも、天のこえだと思う」
頼胤は夕餉までいて城へ帰った。……弟を送りだした左近は、屋形へ戻るとすぐに、居間に隣接した密室へはいった。そこは側近の者もちかづくことを禁じられている。或るとき小姓のひとりが、厳秘にされている室内のようすに興味をひかれ、隙をみてそっと覗いたことがあった。するとそこには頭を丸めた異形の男がいて、まるで餓鬼のように芋粥を喰べているのがみえた。そしてあまりその男のありさまが異様なので、その年少の小姓は気絶し、間もなく勤めを退いたと伝えられる、……つまり左近のほかには何人も近づくことをゆるされぬ部屋だったのである。かれはそこへはいっていった。
二
密室の中にいたのは武田魁介と久木直二郎の二人だった。久木は作田金吾、武田は上杉三十郎と変名している。武田が寅寿から訊きだして、大峰、矢田部の在所をつきとめて此処まで来たことは云うまでもあるまい。左近が頼胤に求めたのは、この二人の指摘に依るものだったのである。
「望みのことはとりはからって置いた」