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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

三

――そうだ、新島は秀之進の水戸入りを遮るために跟けて来た、それに違いない。

「わかった、もういいよ坊主、ありがとう」大助はそう云って踵を返した。

三

大助が宿へ戻ると、新島八十吉が旅装をととのえて出立するところだった。かれの呼び寄せたさっきの府中藩士が、なにか口早に云いのこして駆け去ってゆくのも見た。

「やあ、ご出立ですか」

大助が声をかけると、

「なかなか味をやるな」と八十吉はするどい眼でじろりと睨んだ。

「どうしたんですか」

「いや、いっぱい食ったというわけさ」

「……ほう、誰がです」

八十吉は笠を取った、そしてもういちどこっちをねめつけながら云った、「誰がいっぱい食ったか、知りたいかね」

「知りたいですね、わたくしにはなんのことかさっぱりわかりませんから」

「じゃあ来たまえ」

「…………」

「但し、ふたたび江戸へは帰れないつもりでね」

そう云いすてると、八十吉は笠を手に持ったまま大股に道へ出ていった。

いよいよたしかである、かれは早水秀之進を追っているのだ。そして早くも秀之進の逸走したことを知り、それが大助と牒し合せたものだと察したに違いない、――さあ急がしくなったぞ、かれは二階へ駆けあがって、出立するからと勘定を命じた。