轻松读懂日语经典作品
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
「時事新報」1944(昭和19)年1月1日~7日、1月9日~2月25日、3月1日~3月5日、3月7日~3月8日、3月11日~3月15日、3月18日~3月21日、3月25日、3月27日~3月29日、4月1日~4月3日、4月7日~4月11日、4月15日~4月19日、4月24日~5月4日、5月6日~5月9日、5月13日~5月17日、5月20日、5月22日~5月24日、5月27日~5月31日、6月3日~6月8日、6月12日~6月17日、6月19日~6月22日、6月24日~6月26日、6月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 页
一歩一歩
一
しかし、夫人の「お願い」をはじめてかなえるよろこびは、彼を有頂天にした。
一歩一歩
一
夜のひけは二時三時になつた。
港町の客はこういうものだと聞かされても、彼女には、比較するものがなかつた。船を宿にする男たちに、帰る時間はないのである。
「さ、もう閉めるわよ。だめだよ、そんなとこへ寝させちまつちや……」
女主人の、督励にもかゝわらず、この店の女たちは、客といつしよに酔つていて正体がない。まだまだ気をひきしめているのは、彼女一人ぐらいなものである。
「ねえつたら、ユキちやん、あんたはまだ、たしかなんだろう?」
つまり、ユキちやんと呼ばれたのが、この店へはじめて出て、まだ三月そこ/\の北原ミユキであつた。
「えゝ、あたしは酔つてなんかいないわ。でも、だるいの。先へ帰つてもいゝかしら?」
「勘定さえすめばいゝさ」
「あら、あたしの、いますんだんじやない?」
「そうか。そんならいゝよ」
ユキちやん事、北原ミユキは、こうしてこの日の勤めから解放される。
もう顔をなおす手間はかけない。外とうにくるまつて、深夜の海べを町の方に歩いて行くのであるが、最初の掘割の橋を渡ると、彼女のからだ全体がしやんとしてくる。