轻松读懂日语经典作品
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
「時事新報」1944(昭和19)年1月1日~7日、1月9日~2月25日、3月1日~3月5日、3月7日~3月8日、3月11日~3月15日、3月18日~3月21日、3月25日、3月27日~3月29日、4月1日~4月3日、4月7日~4月11日、4月15日~4月19日、4月24日~5月4日、5月6日~5月9日、5月13日~5月17日、5月20日、5月22日~5月24日、5月27日~5月31日、6月3日~6月8日、6月12日~6月17日、6月19日~6月22日、6月24日~6月26日、6月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 页
七
七
市ノ瀬牧人と北原ミユキとは、ほとんど直接に口をきこうとしなかつた。どつちもそれを避けているふうではないが、ふたりの間に交わされる話題は、つねに、康子を通じて、康子もいつしよにということになる。それはきわめて自然なようにも思われたが、康子にしてみれば、あきらかに、自分の存在がこの場合、不必要であり、邪魔なものに考えられた。しかし、それは、いまどうしようもないのである。
「あたし、午後の汽車で帰ろうかしら? これから何時のに間に合うでしよう?」
「今からだと、もう東京へ遅く着く汽車しかありませんわ。お疲れになるわ。ねえ、市ノ瀬さん」
「そう、辰野を四時いくらつていうのには、まだ間に合うけれど、東京へ十一時だで……」
「いゝわ。それでいゝわ。早く帰らないと困るの、あたし……。市ノ瀬さんは、一日や二日、ぶらぶらしてらしつていゝのね」
「ぶら/\はできんですが……」
「とにかく、そうしてちようだい。さ、行きましよう」
ボートの中へは、いつの間にか、北原ミユキのはからいで、ざる一杯のシジミが東京へのおみやげといつて用意されていた。
が、いよ/\、康子と市ノ瀬牧人を乗せらボートが岸をはなれようとするとき、康子はそこにしよんぼり立つている北原ミユキに、声をかけた。