轻松读懂日语经典作品
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
「時事新報」1944(昭和19)年1月1日~7日、1月9日~2月25日、3月1日~3月5日、3月7日~3月8日、3月11日~3月15日、3月18日~3月21日、3月25日、3月27日~3月29日、4月1日~4月3日、4月7日~4月11日、4月15日~4月19日、4月24日~5月4日、5月6日~5月9日、5月13日~5月17日、5月20日、5月22日~5月24日、5月27日~5月31日、6月3日~6月8日、6月12日~6月17日、6月19日~6月22日、6月24日~6月26日、6月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 页
八
と見せつけられたためである。
八
辰野駅へ着くと、もう夜は白々と明けはじめていた。
汽車がわずか遅れたために、飯田線の初発は出てしまつたあとで、康子はその次ぎを待つために駅前の茶店でひと休みしようか、それとも、寒いのをがまんしてホームへはいろうか、と迷つていた。
すると、ちようどそのかたわらを、重そうなリュックをかついで一人の中年の男が通りかゝつた。オーバーに中折れという服装がリュックとつり合わぬおかしさはだれの目にももうなれて来たが、その男は、おまけに人形のはいつたガラス箱を大事そうに抱えているのが漫画風の愛きようをそえていた。
彼女はなにげなくその男の顔をみたのだが、向うでも、こつちをしげ/\とながめ、行きすぎようとして、ふとうしろをふり向き、ちよつとためらいながら、そばへ寄つて来る。
と、その時、彼女は、たしかに知つている顔だと気がついたけれども、どうしても名前を思い出せない。
「失礼ですが、井出さんの奥さんじやいらつしやいませんか?」
ていねいに帽子をぬいで問いかけた、その額のくつきりと上半分の白い――つまり日にやけた顔が帽子のところだけ白くなつている、それだけのことで、すぐに康子の記憶はよみがえつた。