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ひのとびら

火の扉

岸田 国士

「時事新報」1944(昭和19)年1月1日~7日、1月9日~2月25日、3月1日~3月5日、3月7日~3月8日、3月11日~3月15日、3月18日~3月21日、3月25日、3月27日~3月29日、4月1日~4月3日、4月7日~4月11日、4月15日~4月19日、4月24日~5月4日、5月6日~5月9日、5月13日~5月17日、5月20日、5月22日~5月24日、5月27日~5月31日、6月3日~6月8日、6月12日~6月17日、6月19日~6月22日、6月24日~6月26日、6月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 页

青空文庫

五

おそろしく顔色がわるく、からだをわるくしていることはひと目で察せられた。

「わしの戦友で、負傷はする、病気はする、難儀をした男です」

市ノ瀬牧人がいうと、

「この通り、足は義足だで……」

と、その青年は左脚をちよつとあげてみせた。

「おやじさんは?」

「うむ? おやじはそこにおる」

あごで指す方をみると、小屋の裏手に、木の根のようにうずくまつて、俵を編んでいる男がいた。

五

ついさつきまで日があたつていたのに、おやという間に、薄暗い夕やみがおりていた。

急いでそこを引きあげはしたが、荷物をとりにさつきの家に寄つた頃は、もうあかりのつくころであつた。

どんなにしても二時間はかゝる道であつた。

「すこしゆつくりしすぎたわね。でも、いゝピクニックだつたわ」

井出康子は、だいぶ参つたらしいむすこの様子を気にしながら、足もとのあぶない坂道を、つまづき、つまづき、歩いた。

「なに、わしは、あの家へ一晩やつかいになつてもいゝぐらいに思つとつたで……」

「じようだんじやないわ。でも、あんた、おなかがすいたでせう?」

「わしはなんでもないが、モトム君はどうだね?」

「ボク、すいたさ」