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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
「時事新報」1944(昭和19)年1月1日~7日、1月9日~2月25日、3月1日~3月5日、3月7日~3月8日、3月11日~3月15日、3月18日~3月21日、3月25日、3月27日~3月29日、4月1日~4月3日、4月7日~4月11日、4月15日~4月19日、4月24日~5月4日、5月6日~5月9日、5月13日~5月17日、5月20日、5月22日~5月24日、5月27日~5月31日、6月3日~6月8日、6月12日~6月17日、6月19日~6月22日、6月24日~6月26日、6月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 页
木の葉の如く
一
一
紀州田辺の港は、いわゆる復員船の出入りで、この秋から珍しい混雑を呈していた。
いま一そうの大型船が沖に浮び、いく杯ものハシケで運ばれる「武器のない兵隊」の波がさん橋にあふれ、そのひとり/\の表情に祖国の土を踏む複雑な気持が読みとれる。めい/\が肩にめりこむほどの荷物は背負つているが、あたかも強いられた労役に服しているような足どりで、たゞ、前へ前へとのめり歩いていた。
行くあてのあるものは、そこからすぐに停車場に向つた。
行くあてのないものは、一時、町はずれの復員者相談所へ身をよせた。
出迎えとおぼしい男女の姿もちらほらさん橋の附近に見えはするが、いずれも確たるあてもないらしく、もしやというぐらいのあやふやな眼つきで、この人の波を遠くからながめていた。
ところで、ついさつきから、潮風にほつれ毛を巻きたて、片手にちようど卒塔婆のような白木の札をさし出して、さん橋の上を行きつもどりつしている一人の若い女が人目をひいた。
木の札には、――「旭一三六二四部隊杉部隊の浜島茂を御存じの方」と墨で書いてある。
十人のうち一人がそれを読むか読まぬか、おそらくは気ちがい女のもう執のすがたとして淡く見すごされるふうであつた。