轻松读懂日语经典作品
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
「時事新報」1944(昭和19)年1月1日~7日、1月9日~2月25日、3月1日~3月5日、3月7日~3月8日、3月11日~3月15日、3月18日~3月21日、3月25日、3月27日~3月29日、4月1日~4月3日、4月7日~4月11日、4月15日~4月19日、4月24日~5月4日、5月6日~5月9日、5月13日~5月17日、5月20日、5月22日~5月24日、5月27日~5月31日、6月3日~6月8日、6月12日~6月17日、6月19日~6月22日、6月24日~6月26日、6月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 页
二
最悪の場合を想像すればできなくもないし、最善の場合もまた考えられないではなかつた。
五月以後、久々の汽車の旅は、こむとかこまぬとかの話ではなく、これでも人間かと思われるような無気味な混乱の数時間であつた。
夫の勤務先で、同時に宿舎になつている工しようは、八王子から厚木へ通じる電車の沿線で、H町という停留場で降りることになつているのだが、彼女は直接そんなところへ足を運んだことはかつてなく、おまけに電車の故障で思わぬ時間を食い、H町へ着いたのがかれこれ九時近くであつた。そして、駅の前は手さぐりでも歩けぬような暗さである。
二
若しや迎えが来ていはせぬかと、そのへんをながめまわしたが、人ッ子一人みつからぬ。時間を知らせずにたつて来たのだから、と思い直す。何処かで工しようのありかを訊ねようと思う。ところが、店らしい店は何処にもない。駐在所のありかでも見えればと、やみをすかしてみるけれども、そんなものはてんで眼にとまらぬ。たゞ、空をあおぐと、まばらな星の光が遠く廃きよのような建物のどす黒い輪郭を描き出しているだけである。
いつ時、康子は途方にくれる。
歩いてどれくらいかゝるのか、夫からそれほど遠いとも聞いていなかつた。