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ひのとびら

火の扉

岸田 国士

「時事新報」1944(昭和19)年1月1日~7日、1月9日~2月25日、3月1日~3月5日、3月7日~3月8日、3月11日~3月15日、3月18日~3月21日、3月25日、3月27日~3月29日、4月1日~4月3日、4月7日~4月11日、4月15日~4月19日、4月24日~5月4日、5月6日~5月9日、5月13日~5月17日、5月20日、5月22日~5月24日、5月27日~5月31日、6月3日~6月8日、6月12日~6月17日、6月19日~6月22日、6月24日~6月26日、6月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 页

青空文庫

三

たゞ、尾関ひとりがとき/″\特徴のあるバスで話しかける。

「ぼくもあゝいう連中と飲むのははじめてだが、アトリエの酒宴もなか/\乙なもんだ。君も遠慮なんかしないで飲めばいゝのに」

「…………」

「あの、なんとかいう女彫刻家は、ありや相当なもんだ。あの社会は才能がものをいうらしいから、みんなをおさえてたじやないか。ところで、君は、本来はモデルという柄じやないし、あゝいう女性と仲よしになりたまえ。どうしてそんなに黙つてるの?」

三

こゝでひと言、説明をしておかねばならぬことは、北原ミユキがどういうふうにして、この江原久作のアトリエへ来たかということである。それは言うまでもなく、尾関昇が連れて来たのである。彼女は、尾関の病気の性質を知つてから、彼をなんとなく信用しなくなつたけれども、やはり気のおけぬ、面白い話相手として、店へくれば愛想よくあしらい、今後の身のふり方について軽い相談をもちかけなどした。東京へ出たいと、彼女はしきりに言つた。すると、ある日、尾関は――東京へ出たければ方法はなくはないが、それにしても、いつたんからだを落ちつけるところが必要だ。それには、ごく親しい友人で彫刻をやつている男が、大きなアトリエのついた家に住んでいて、たしか母親と女中と三人暮しだから、一人や二人なら頼めばおいてくれるだろうと思う。