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ひのとびら

火の扉

岸田 国士

「時事新報」1944(昭和19)年1月1日~7日、1月9日~2月25日、3月1日~3月5日、3月7日~3月8日、3月11日~3月15日、3月18日~3月21日、3月25日、3月27日~3月29日、4月1日~4月3日、4月7日~4月11日、4月15日~4月19日、4月24日~5月4日、5月6日~5月9日、5月13日~5月17日、5月20日、5月22日~5月24日、5月27日~5月31日、6月3日~6月8日、6月12日~6月17日、6月19日~6月22日、6月24日~6月26日、6月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 页

青空文庫

うしろ影

一

なるほど、道は登り一方で、人里をはるかにはなれた森の間の草地である。炭を焼いたあとの、雑木の切株のまわりに、によき/\とワラビの芽がのび、これはなんとしても採りつくせぬというありさまであつた。

「なんていうありかた、これは? まるで、ワラビ畑ね」

と、井出康子は、むしろ手を下さずにながめていたいというふうに、眼をみはつた。

市ノ瀬牧人は、やゝ得意げに、

「あるところには、ある、というこつてす」

「まつたく……あればそれほどありがたくないつていうこと、かしら? でも、もつたいないから、持てるだけ持つて帰るわ」

が、その「持てるだけ」が問題であつた。市ノ瀬牧人は、ひと握りずつ束にしたのを、リュックいつぱいにつめこみ、二つの手さげ袋は、はみだすほどになつた。

「もう、たくさん、たくさん」

そこで、弁当をということになつた。

ところが、市ノ瀬牧人は、近所の知合いの家で昼の支度を頼んであるからと、先にたつて歩きだす。そんな必要はないのにと、彼女がいくら迷惑がつても、いつこう耳をかさぬ。

しかたがなしに、ついて行くと、谷あいの一段低くなつたところに、さゝやかなわらぶきの一軒家があつて、主婦らしい中年の女が、土間でなにやら言いわけめいたことをくど/\と言つていた。