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ひのとびら

火の扉

岸田 国士

「時事新報」1944(昭和19)年1月1日~7日、1月9日~2月25日、3月1日~3月5日、3月7日~3月8日、3月11日~3月15日、3月18日~3月21日、3月25日、3月27日~3月29日、4月1日~4月3日、4月7日~4月11日、4月15日~4月19日、4月24日~5月4日、5月6日~5月9日、5月13日~5月17日、5月20日、5月22日~5月24日、5月27日~5月31日、6月3日~6月8日、6月12日~6月17日、6月19日~6月22日、6月24日~6月26日、6月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 页

青空文庫

六

というような顔つきをし、百々子は百々子で、こんな熱演をそばで聞くのははじめてのこととて、あによめの気が変になるのではあるまいかと不気味さを感じるほどであつた。

いつの間にかもう別の曲に移つていた。

六

ちようどそのころ、まだ開いている坪庭の門をくゞつて、北原ミユキが姿をあらわした。

勝手がわかつているので、別にためらいもせず、縁側のくつぬぎのところへ来て、ピヤノの音に耳をすます。

――レコードか知ら、と思う。が、それにしてはなま/\しい楽器のねいろだと気がつくと、彼女の胸は急に波うつ。――あら、奥さんが……始めて……と、もうぐず/\はしていられない。はき物をぬぎすて、障子のすき間からのぞいてみる。

――あゝ、やつぱり……。

口の中で思わずそう言つて、茶の間の障子に手をかけ、そつと押しあける。

老夫人の眼がそれを迎える。はいれという合図だ。百々子が顔をあげ、モトムがすわりなおす。

「先生」がそういう風に訪ねて来ることには、近ごろもうなれている一家のものは、別にお客らしいあしらいもせず、老夫人が小声であいさつをするほかは、みな黙つてこたつの仲間入りをさせる。