轻松读懂日语经典作品
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
「時事新報」1944(昭和19)年1月1日~7日、1月9日~2月25日、3月1日~3月5日、3月7日~3月8日、3月11日~3月15日、3月18日~3月21日、3月25日、3月27日~3月29日、4月1日~4月3日、4月7日~4月11日、4月15日~4月19日、4月24日~5月4日、5月6日~5月9日、5月13日~5月17日、5月20日、5月22日~5月24日、5月27日~5月31日、6月3日~6月8日、6月12日~6月17日、6月19日~6月22日、6月24日~6月26日、6月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,467 字 · 257 页
「毛布はいらないよ。この通り何枚でもある。顔を洗つてないだろう、洗面所もあるにはあるが……すぐ行くなら、一緒に来い」
康子は、洗面道具をとり出して夫の後について行つた。兵営とも違い、学校の寮ともちがう、一種特別なお役所のにおいが、強く彼女には感じられた。
部屋に帰ると、附近の仕出し屋から運ぶらしい朝食がちやんと二人前、事務テーブルの上に並べてあるのを、康子は珍しいものをのぞくようにしてはしをとつた。なにはともあれ、こんな殺風景な食事を三度々々甘んじてとり、先ざきの楽しみもなく、一切をかけた光栄のしるしをはがれ、しかもなおこうして「何事か」に励んでいる夫のいた/\しい姿を見るに忍びなかつた。なにかひと言、いま、妻としての想いをこめた言葉で、この夫を慰め、鼓舞したかつた。が、その言葉がどうしても口に出ない。
「もう食わんのか?」
と、はしをおいた康子をみて、一徳はたずねる。
「えゝ、どうしてものどを通りませんの」
「そんなにまずいか、この雑炊は?」
「いゝえ、それより、きよう、どんなお話を伺うのかと思うと、あたくし、食事どころじやございませんの。早くおつしやつていたゞけないかしら?」